アマガエルの大合笑

更新速度:ポルシェよりはるかに遅い ぴろよによるお笑いブログ ライブ多め

オーシャン座 2018-06-10-079-080

新参のくせに・・・という揶揄がある。
ファンや贔屓をその年季によって新参と古参にわける悪習からだ。
肩身が狭くてなんとなくコソコソしたり、新参を揶揄する古参とやらに文句を言ってみたりと色々な経験もしたけれども、新参に利もある。
とにかく新参は乾いたスポンジのごとく知識や経験を水のようにドンドン喜んで吸収していくし、その「知らない」「見たことない」を求めてフットワークが軽い。


私が神田松之丞を認識したのが2017年10月9日。新参期間が体感的に長い気もしないでもないが(かと言ってどの分野でも古参になんか絶対なりたくないのでいいのだが)、今追いかけたいのは東京の若手漫才師・コント師(それに付随するピン芸人。事務所所属が多い)だったりするので、松之丞に対する温度と密度を低くしなければならない関係上まあそれもよしとしよう。
日付まではっきり覚えているのは飲み屋で知り合って以来懇意にしている知り合いが主催している落語会ということと、その日の落語会は昼に行く*1と約束していたのにすっかり忘れ、夜に別の予定があったにも関わらず詫びの菓子折りを持って向かったという自分の不義理とダラシなさが露呈する印象的なエピソード付だったからだ。
本当に顔を出すだけで帰るつもりだったが「神田松之丞さんだけは観ていってください」の知人の言葉を信じた。結果ギリギリだがその後の予定*2にも間に合ったし、結果今まんまと松之丞を追いかけることになっている。松之丞が公言している使命が「講談を広める」なので*3、そのほんのちいさな一点になれたので本望だ。


心理学の用語でカラーバスという言葉がある。ある色を意識すると町中でその色ばかりが気になる、転じて気になる情報はどんどん入ってくるようになると言ったところだ。ポジティブな人はカラーバスを「引き寄せ」という言葉で理解している可能性が高い。私はそもそもその「引き寄せ」という単語が持つ「うさん臭さ」にかなり抵抗があるので、10月の前*4にも既にその落語会に松之丞がゲスト出演していたことも知らず、熱心に聞いているTBSラジオで「問わず語りの松之丞」の一節がCMで延々と流れていたのにも拘わらず完全に無視を決め込む*5という「現時点で興味のないことは全く体に入ってこない」という反証でカラーバスを理解することになっている。今後修正するつもりはないのだが、私は一つのことにどっぷりと集中出来ないしそこそこ多方面に興味があるし、で何か人生で大事なものを見落としている可能性は高い。それもまた人生。

とにかくだ。鴨川にきた。

鴨川ヒルズリゾートホテル内の宴会場で行われる初の試みらしい。
まず後列にキャップとポロシャツという似たようなそして気が抜けた町ではよく見かける(父もたまにそんな格好をしていることもある)しかしこういう会ではかなり独特な身なりをした70代くらいの男性が5名前後いたのがとても印象的。人数が集まらなくて急きょ集められた地元の人だろう。誰かや何かを見に来たのではなく、なんとなくいつもの集まりでなんとなく楽しそうなことをやるから来てみたという感じである。何かに期待していない。実家が商売をやっているので「商工会の集まり」みたいな言葉になじみがるのだが、多分彼らもそんなノリでここに来ている。今一番チケットの取りにくい講談師をゆったり椅子を並べてもびっしりと詰めれば100-150人は入りそうな宴会場で、さらにゆったり椅子を並べて50人弱で見た、とそんな感じである。
出演者や開催者側からしたら好ましいとはいいがたい状況かもしれないが、私はそのレア感にワクワクしていた。
50人という人数規模も、寄席出演を続ける松之丞ならまだ当分見られる光景だと思うし、興味がないがなんとなくそこにいる人が松之丞の観客になることもまだまだあるだろう。ただしこのコンボ・コラボ、組み合わさった状態はこの先も大分レアなのではないかと思うのである。来てみるもんだ、地方公演。と言ってもここは首都圏。

ボクサーの道もあったかもしれない三遊亭金の助(20分)、ウクレレ漫談30分もあっという間のぴろき(30分)、500席くらいの会場かと思っていたと嘯く松之丞(40分)の綺麗な90分構成。120分のお達しがあったので特に2部の客は少し戸惑っていた様子。

私は芸人じゃないけれども人前で話すという立場であることが多いゆえ、寝る客・聞かない客らは目障りなことこの上なしとも思うし、それを指摘や注意ではなく己が話術だけでこちらに振り向かせたいという変なプライドもあったりする。何かを期待しているわけではない客混じりの決して多くないステージで、ぴろきの「反応が薄いことをきちんとそしてしつこくいじる」「いつの間にか手拍子を誘う」流れや、松之丞の「自分の集中を阻害するものをきちんと整理する」「それを軽く笑いにする」流れに注目も納得も関心もしたのはその普段の立場というやつのせいも多分にある。なんというか態度やマナーの悪い客を別の客が憤慨したりするのは間違っちゃいないけど野暮なことかもしれない、と常々思っている。それが助かると思っている芸人もいるかもしれないけどね。芸以外の巻き込みに時間をかけるなんていうのは本質的じゃないけどやっぱりそれも見せ場だと、だからわざわざライブに生に足を運ぶんだと私は思ったりするわけ。大分余談だね、これは。

枕ではなく本編に入ってからも2度ほど話をとめて客に「タブー」を認識させるという異常事態を笑いに変えた1部
ただその1部の客をきちんと腐してから本題に入った2部
ああレア松之丞。 落語で散々聞いていて松之丞のはなかなか聞く機会のなかった中村仲蔵はやっと聞けた、を上回る「自分の高評価を自覚するタイミング」の違いで物語にこんなに差が出るのかという感動が得られたので◎ 後客席の環境が劣悪だった(と松之丞に自覚させられた)せいか、より集中して聞けたからラッキー。
金の助がやっていた子ほめ。金明竹等々と同様、アンジャッシュ落語って勝手に思ってる。要するにすれ違いがおかしみに発展するやつ。アンジャッシュのネタよりもアンジャッシュ落語が好きなの、私。
2部とも30分のウクレレ漫談で、ただネタは1節しかかぶらずもう見事と言うしかない。R-1予選で数分から寄席で15分くらいは観たことあったけど彼は30分でも40分でも観ていたい
明らかにぴろきが好きで何をやってもハマっていたお姉さん、会が終わった後少し話したパチンコで勝ったから友達を連れてきたという70過ぎのお姉さんがかなりの講談・浪曲・浪花節好きで松之丞を「かわいい顔した坊ちゃんだけど本当に上手」と言い放っていたこと・・・ほんと色んな人が客席にいたな、こういう機会をまた持ちたいなと思いつつもほんと私はすぐ慣れたと勘違いするし、そしたら会をえらそうに選ぶようになるし・・・・うん、台風が呼んでくれた奇跡の会とでもしておこう。

で、私はまだ講談とは何か掴みきるのはおろか一端をつまんでもいない。講談をやっているときの松之丞はこの上なく格好いいし何度でも観たくなるが、好きな松之丞はと問われたら「ラジオの時の松之丞」と当分答えると思う。

三遊亭金の助:たらちね 子ほめ
ぴろき:両方ともウクレレ漫談 
神田松之丞:中村仲蔵 乳房榎


オーシャン座
日時:2018/6/10(日)13:00~ 16:00~ それぞれきっちり90分(中入なし)
場所:鴨川ヒルズリゾートホテル(鴨川)
料金:前売:2500円  当日も多分同じ
※せっかくなんで後泊したが日帰りの人にも温泉がついている大分お得なチケットかと

*1:これまたステキな噺家さんが出る会だったのだ

*2:ま、東京若手漫才師を観に行く予定だった

*3:情報を整理せずにそう解釈しているが多分合ってるよな

*4:2017年3月

*5:CMで流れていた小さな女の子からのメール「・・・どうしてそんなに太っているのですか・・・」は相当面白く相当記憶に残っているのだがじゃあその番組を聞いてみようとはならなかったのだ